HONKY TONK 脳内

主に漫画についての評論 好きな漫画はジョジョ・萩尾望都・楳図かずおと答えるようにしてます。 映画についてはTwitterで https://twitter.com/hoorudenka

誰も話さない本当の『ONE PIECE』第2回「縦のつながり」と大秘宝の正体

前回の考察で分かった「遺産」を受け継ぐというテーマをさらに掘り下げていきたい。そして後述するが、これによりひとつなぎの大秘宝ワンピースの正体も、確たる根拠を持って予想することができる。

 

「横のつながり」ではなく「縦のつながり」

「遺産」を受け継ぐというテーマが物語のあらすじでも、個々のエピソードでも繰り返し描かれていることがわかった。

これによってもう一つ大事なことがわかってくる。

それは死んでしまった人や偉人もしくは先輩が、子供や後輩に「遺産」を残すというこの構造、言い換えるなら「縦のつながり」が本作にとって重要だということだ。

そう、世間一般に流布されるワンピースの面白いところは「仲間」を大切にするという、いうなれば「横のつながり」という言説は間違いではないが少しずれている。漫画『ONEPIECE』においてもっとも感動的で大事なのは、「遺産」を受け取るという「縦のつながり」という関係なのである。

 

ひとつなぎの大秘宝ワンピースとは何か。

この「縦のつながり」の重要性に気がつくと、ひとつなぎの大秘宝ワンピースの正体についても確信を持って答えることができる。

それを明らかにする前に、この大秘宝とポーネグリフ(作中での別名歴史の本文)との関係をおさらいしておきたい。

ポーネグリフは前回少し触れたが、麦わら一味であるロビンだけが読める「空白の歴史」を示した文書である。それは劣化しないし破壊できない特殊な石に彫られ、世界各地に散らばっているとされる。

しかしながら、ロビンはこれが読めるために、世界政府に常に狙われているのだが、この古代文書は古代文明の兵器の手がかりになると同時に、「空白の歴史」は世界政府とってとても不都合なものであるらしいからだ。

ロビンの過去よりオハラの研究者クローバー博士のセリフ

 f:id:hoorudenka:20160628193425j:plain

 作中における歴史には注目しなくてはならない、言わずもがな歴史とは先人の残した「遺産」であるからである。それを考えてみれば「空白の歴史」は物語の根幹に関わる大きな問題であることが分かる。

また、ポーネグリフに関しては空島編でこういう描写もあった。

ゴール・D・ロジャーはポーネグリフを操れるらしいということだ。

f:id:hoorudenka:20160628193813j:plain

海賊王ゴール・D・ロジャーは、最近では主人公ルフィとかなり密接に「縦に」関係してきている。ミドルネーム?のDという文字は、ルフィを含む主要な人物に与えられているものであり、彼らは「Dの一族」と呼ばれることもある。

主人公に関わることからもこれは作中の最も重要な伏線と1つであることは言うまでもないが、「Dの一族」にはもう一つ情報がある。彼らは「神の天敵」とも呼ばれ、ここでいう「神」とは事実上世界を支配する天竜人を指すということが、七武海ドフラミンゴの発言で明らかになった。

 

少し整理して、以上の情報からわかることは以下のようになる。

・ポーネグリフは、歴史の空白を埋める存在である。

・歴史は過去の人々の「遺産」そのものであり、重要である。

・「空白の歴史」は世界政府にとって、不都合なものであるらしい。

・海賊王とポーネグリフには密接に関係がある。

・海賊王やルフィを含む「Dの一族」は世界政府を始めとする天竜人と、伝統的に対立している。これはポーネグリフと共通する特徴である。

 

以上の情報とこれまで考えてきた「縦のつながり」を合わせて考えると、

ひとつなぎの大秘宝ワンピースとは、天竜人や世界政府がひた隠しにした「空白の歴史」であり、古代文明と現代人を「縦にひとつなぎ」にする海賊王の「遺産」だと予想することができる。

なぜ「縦に」ひとつなぎ というところが肝だが、これでなぜ「ひとつなぎの」大秘宝なのかというところもはっきり説明することができる。

 

物語の最大の謎にカタがついたところで、次回は作品内容から少し離れて、『ONE PIECE』と社会との共通点について聞いてもらいたい。自己啓発本がこういうことをいつもやっているが、毎回全く的を得ていないので、ちゃんと考える必要がある。

誰も話さない本当の『ONE PIECE』第1回 ONE PIECEは先人の「遺産」を受け継ぐ物語

はじめに

ONE PIECE』という作品が漫画において重要であることを認めないわけにはいかない。

日本の全出版物の中でぶっちぎり一番をマークし続ける週刊少年ジャンプを長年支え、単行本が発売されると毎回ベストセラーを叩き出し、その経済効果は計り知れない。

しかも2016年6月現在82巻という長寿。ちなみにアマゾンで80巻と検索してヒットした漫画は『名探偵コナン』『こち亀』『あさりちゃん』『ジョジョ』『美味しんぼ』『はじめの一歩』『ゴルゴ13』といった作品。すげぇなあさりちゃん

書いているうちにかなり長くなったが、簡単な話なのでワンピースを読んだ人はざっと読んでも理解できると思う。

ちなみに、この記事はこのブログを始めるにあたって一番最初に書いたのだが、考えていることを書いていたら1万字になってしまった。これでは誰にも読んでもらえないと思い、テーマごとに分けることにした。

 

ワンピースの主題 「遺産」を受け継ぐということ

第1回は『ONE PIECE』が一体どういう物語かということについて考える。

タイトルにもあるようにそれは「遺産」を受け継ぐ物語と言える。なにを当然のことをと思われるかもしれないがこのことをよく考えず、世間的には「ONE PIECEは麦わら一味を始めとする仲間との物語だ」という話になってしまいがちである。

この言説を否定するつもりはないが、「仲間」というのはこのテーマに比べると枝葉でしかない。これに関しては次回詳しく考えたい。

話を戻そう、ではなぜ先人の「遺産」受け継ぐ物語と言うことができるのか。

まず物語の最も大きな構造を見て欲しい。ルフィ達の冒険の目的は海賊王ゴールド・ロジャーの「遺産」、ひとつなぎの大秘宝ワンピースを手に入れることだ。

紛れもなく、これは先人の「遺産」を受けつぐということはわかってもらえると思う。

では、次にルフィ一味の個々のエピソードを見てみると、仲間達の過去という小さな構造でもこの「遺産」を受け継ぐというテーマが反復されている。ざっと紹介すると以下のようになる。

 

①ルフィの場合

赤髪のシャンクスが自分の片腕を犠牲にして彼を守り、海賊王への道を拓いたことは、ルフィがシャンクスから多くのものを受け継いだと言える。

トレードマークである麦わら帽子もこのとき手に入れている。

のちにそれはゴールド・ロジャーの「遺産」と発覚するが、彼に「遺産」を与える人物はエースや白ひげとまだまだ増えている。

②ゾロの場合

親友くいなの死と、その親であり師匠のコウシロウ先生は、彼の生き方に多大な影響というか、世界一の剣豪になるという生き方そのものを与えている。ゾロはアラバスタ編でのMr.1ダズ・ボーネス戦でも彼の教えを思い出しているし、くいなの「遺産」は「和道一文字」という三本の中で唯一折れていないとして刀として残ってもいる。また、彼にはミホークという新たな師匠もできた。

③ナミの場合

育ての親ベルメールさんは、死を持って彼女に親子の絆など多くのものを遺した。

それは船が新しくなっても引き継がれた、みかんの木という形でも残っており、ナミという強く賢い女性の原点でもある。

④ウソップの場合

まだ見ぬ父親ヤソップに象徴される強さへの憧れは、父親が彼に残した「遺産」だろう。彼のこの憧れは、巨人族ドリー&ブロギーによりさらに強化される。

⑤サンジの場合

自らの武器である片足を投げ打ってまで彼の命を救ったかつての海賊ゼフは、彼に料理や足技といった生きる術までも与えた。彼にとってゼフは父親にも等しい存在で、実際に親父と呼んでもいる。彼の影響でサンジは食べ物を粗末にすると怒る。

⑥チョッパーの場合

作中最も感動的なエピソードという呼び声高い「ヒルルクの桜」でも、主題は「仲間」ではなく、Dr.ヒルルクとくれはが彼に「遺産」を与えるというものになっている。ヒルルクの研究はまさに引き継がれた「遺産」と見るべきだし、くれははトナカイ人間である彼を息子とすら呼んでいる。

⑦ロビンの場合

ナミとは逆に親であると言わないことでその絆を証明した母親と、故郷オハラの研究者たちの目的は彼女の目的にもなった。そして、彼女は失われた歴史を記した「遺産」である古文書ポーネグリフ(歴史の本文ともいう)を読むことができる。これはもっとも重要な遺産である大秘宝ワンピースの核心ともなる部分である。

⑦フランキーの場合

船大工の師匠トムさんから彼は技術だけでなく、職人の心意気も受け継いでいる。

また、一時期は彼から受け継いだ禁断の古代兵器プルトンの設計図も持っていた。

⑧ブルックの場合

一応、死んだ仲間達の思い出、いうなれば遺産を、鯨であるラブーンに渡すことが彼の冒険の動機である。しかし、彼には他の仲間達のように偉大な先輩からという要素が薄い。どうやらゴールド・ロジャーより先輩である*1彼自身が「遺産」とも言えるが、このままいくと作者尾田栄一郎自身が、いわゆる仲間大事言説に引っ張られているという汚点になり得る。僕の作品に関しての不満は最後にまとめる。

 

以上で麦わら一味が個々に「遺産」を受け取っているという構造が明らかになった。

これに限らず、一味以外でも「遺産」を受け継ぐというエピソードは、空島のシャンバラという土地、ノーランドの伝承やトラファルガー・ローにおけるコラソン、白ひげとエースなど、枚挙にいとまがない。

また、いいものだけでなく悪いものを受け継いでいる人たちというもいる。ドフラミンゴの世に対する恨みやホーディ・ジョーンズの理由のない人間への敵対心がこれにあたるが、このような悪い面も描くところに作者の優れた才能が見える。

 

ワンピースが大きい構造でも、また個々のエピソードでも「遺産」を受け継ぐことを繰り返していることがわかってもらえただろうか。

これによって、本田区は「遺産」を受け継ぐ物語ということができるだろう。ちなみに「仲間」の話は確かにほぼすべてのエピソードで扱われているが、大きな構造にはなっていない。

 

次回はこの「遺産」を受け継ぐということがなにを表しているか、さらに深く考える。

 

*1:どのエピソードか忘れたが彼がロジャーの名前を聞いた時に「そんな名前のルーキーがいたような・・・」と発言している

感想『女帝』kindleセールだったから読んだ、今は感謝の気持ちしかない。★★★★

『女帝』全24巻 画 和気一作 原作 倉科遼  掲載誌漫画TIMES 掲載年1996年〜2001年

 

倉科遼という作家 ネオン漫画の元祖

倉科遼といえば、ネオン漫画の元祖、いわゆるホストとかホステスとかの漫画、66歳の大ベテランと知ったのはこれを読んでから。よく名前は見るなとは思っていましたヤンジャンでやってた『夜王』とか。

ですが、一番思ってたのはお父さんが読むちょっとスケベで変な漫画

なので『女帝』もアマゾンセールで100円だったから読んだんですが、なめてましたすみません。おもしろかったです。

 

あらすじ。私は夜の世界で女帝になる!

熊本でスナックを経営する母と暮らす高校生立花彩香。美人で頭もいい彼女は、みんなのあこがれで、地元企業のおぼっちゃま杉野謙一もその一人であった。しかし、そんな彩香に猛烈なライバル心を燃やす政治家の娘梨奈は、ある事件をきっかけに彩香を陥れる。そしてそれと同時に杉野の父親は、彩香の母にスナックの立ち退きを迫り、そのストレスから彼女は病死してしまう。

そして彼女は自分たち親子を苦しめた謙一と梨奈をはじめとする「上流の」人間に復讐することを誓った。そして、それを実行するために自分ともっとも近い夜の世界での「女帝」を目指すのだった。

顔面崩壊も気にせず、啖呵をきる彩香。これで高校生。

f:id:hoorudenka:20160708192954p:plain

 

「女帝」への道。しかし、「女帝」とはなにか。

こうして女帝への道を歩んでいく彩香ですが、実は具体的な女帝像は持っておりません。前述の人たちへの復讐を目的とはしますが、どういう人間がそれに当たるのかわかっていないので、あれこれ悩みながらホステスをやっていくんです。

でも、なんとなくわかると思うんですが、いわゆるやくざとか政界の実力者と仲良くなって世の中をコントロールするという、確かにそれもあります。

客のスキャンダルを握りつぶすためにやくざを使い、しかもすっとぼけるあたり既に悪役に見える。

f:id:hoorudenka:20160708194256p:plain

しかし、本作はそれだけではなく、自分が雇っているホステスの将来はどうするか、ひいては銀座の街をどうしていくかというというところにまで言及していきます。

ホステスがパアッと行くときはゲイバーにいくのか。

f:id:hoorudenka:20160708194859p:plain

この問題にどう決着をつけるか、彩香がどんな「女帝」になるかは読んでご確認ください。24巻とちょっと長いですが、各話平均4ページくらいは彩香のシャワーシーンとなっておりますのでご安心ください。

 

変なところ。

最初にちょっとスケベで変な漫画と思っていたとありましたが、今はちょっと反省しています。しかし、変な漫画というところは間違っていなかったと思っています。

しかしそれも含めておもしろいのでちょっと紹介します。

 

泥棒猫!!

f:id:hoorudenka:20160708200618p:plain

ホステスの世界の話なので寝とった、寝取られたの話は結構出てくるのですが、掲載年から考えても「泥棒猫」はちょっと古い。でもまぁ許せる。

 

夫婦喧嘩。

彩香の同級生杉野と梨奈はけっこう序盤で結婚します。いわゆる政略結婚なので、この夫婦の仲は浮気などもあって徐々に冷たいものになっていくんですけども、久々に妻が誘う時の一場面。

f:id:hoorudenka:20160708201419p:plain

色情狂(ニンフォマニア)か!!と激しいつっこみ。

なんで口調がツッコミ調なのかとか、そんな罵倒はじめて聞いたわということもありますが、それにつられて妻が不能野郎!!に対してインポとルビをふっているとこがぐっときますね。

 

 死ねやぁっ!!

本作のみどころといえばベットシーン、大人の漫画なので、やっぱりあります。

そんなに過激ではないですが画は載せられないので、セリフだけご紹介します。

 

「アアッ イイッ アアッ スゴイ!! アアッダメ イクウ…!! アアッ!イクウ!!

 

イヤア…ダメエ…イクウ!!アアッスゴイ スゴイッ

 

許して ダメエ!! アアッ イイッ!!イイイッ

 

 

 

f:id:hoorudenka:20160708203709p:plain

 

 

 

f:id:hoorudenka:20160708203731p:plain

 

 

イメチェンの失敗

作中10年弱くらい経過するので、主人公を含め登場人物の見た目が変わっていきます。

ですが、たまにこの「イメチェン」に失敗する人が出てきます。

以下は彩香のホステスでのライバル、薫です。

f:id:hoorudenka:20160708204735p:plain

まぁちょっと眉毛太すぎて変だけどまぁいいかって感じですが、時が経つと…

f:id:hoorudenka:20160708205010p:plain

なんだそのものすごいモミアゲは。

 

次に彩香にとっての重要な人物となるヤクザ伊達直人

なんでタイガーマスクと同姓同名なのかは作中誰も気にしませんが、そんな彼もイメチェンに失敗してしまいます。

 

登場時の伊達直人。いかにもやくざという出で立ち。

f:id:hoorudenka:20160708210514p:plain

 

 

ですが数年経つと

 

 

f:id:hoorudenka:20160708210600p:plain

リアル桃白白になってしまいました。

彼もそれに気づいたのでしょう。この後、緩やかに最初に近いビジュアルに戻っていきます。

 

妊娠に対する見方。

ネタバレ気味になっちゃうんですけど、彩香が子どもを作ろうか迷うみたいな話が出てきます。そこから見えてくる作者の妊娠に対する見方がおかしい。

 

まず、その問題の話につながる前話のラストページをみてください。

f:id:hoorudenka:20160708212428p:plain

 

 

普通の会話ですが、問題は次の話のタイトル。

 

 

 

f:id:hoorudenka:20160708212515p:plain

 

受胎計画

びっくりするわぁー間違ってエヴァ開いちゃったかと思ったわぁー。

今ちょっと問題になってる妊活もこう呼んだ方が深刻さが伝わると思います。

 

終わりに

この年代の作家は、劇画のシリアスな中にナチュラルかつ高等なユーモアをはさんできますよね。それを見つけた『クロマティ高校』を超えるほどに。

親父もこうやってつっこみながら読んでいたのだろうか。

 

 

 

 

感想『窮鼠はチーズの夢を見る』おそるべき男(ゲイ)VS 女の戦い。★★★★

『窮鼠はチーズの夢を見る』水城せとな 小学館 掲載誌Judy』『NIGHTY Judy』

 

BLの傑作‥だと思う。

BL作品です。このジャンルはほとんど読まないのでどれが傑作だとかは実は知りませんが、それでも読んだ中ではダントツで面白かったです。

水城せとなはドラマ化もされた『失恋ショコラティエ』で大ヒットした人です。僕もこの作品が好きで調べてみたら、もともとBL作家ということでじゃあ読んでみようという。『失恋ショコラティエ』が非常に繊細かつドラマティックな心理描写で素晴らしいなぁと思っておりましたが、本作『窮鼠はチーズの夢を見る』はこれ一冊でその魅力がほぼ楽しめるといって過言でないかと。

 

あらすじ

会社員大伴恭一は、ある日大学時代の後輩今ヶ瀬渉と再会する。しかし、今ヶ瀬は興信所に勤めており、聞けば奥さんからの依頼で恭一の浮気調査を進めていたという。そして今回めでたくその複数回の浮気のネタがつかめたのだが、ある条件と引き換えに奥さんにこのことを報告しないこともできるという。それは「貴方の体をもらうこと」。

「お前ゲイだったのかよ」と驚きつつも結婚生活のために体を許す恭一。こうして浮気はばれなかったものの、浮気を繰り返す原因であるその優柔不断さから離婚。そして、そこにつけいる今ヶ瀬に徐々に籠絡されていくが、その間様々な女性から言い寄られ…。

 

ゲイVS女

一般的にはゲイと女性というのは仲がいいというのが定説かと思われます。テレビでもいわゆるオネエキャラはその絶妙な立場から、ともすると女の敵になりがちな女子アナ

にもずばずばものをいいますが、愛情を感じさせるものだし、やはり全般的には女の味方であります。しかしながら、実はそのほとんどが夜の商売出身なので男を立てるのも一級という、たくましい方たちなのですが、この作品の場合事情が違います。

女性とゲイがなぜ同じ男を恋愛対象にしながらぶつからないか、答えは簡単、ゲイはゲイの男を狙うし、女性は大多数のノンケを狙うというはっきりとした住み分けができているからです。しかし、この作品では優柔不断でゲイになりかけの男を狙うことから両者が真っ向からぶつかります。

 

とこう書いてしまうと、ずっとぶつかっているようですが、そんな昼ドラみたいなわざとらしい芝居は水城せとなは書きません。直接ぶつかるのは作中一度ですが、そこでの会話がとても素晴らしくて、しびれる!一語一句同じではないですが、ちょっとだけ書きます。

 

女「私は恭一があなたのようなドブにはまっていくのを、見過ごせない。」

今ヶ瀬「僕はドブですか?

「そうよ、ドブよ。」

 

こえぇ。

 

 

窮鼠はチーズの夢を見る (フラワーコミックスα)

窮鼠はチーズの夢を見る (フラワーコミックスα)

 

 

 

白目の魅力 高橋葉介と小松奈々

 

高橋葉介という作家。

1977年雑誌『漫画少年』に掲載された『江帆波博士の診療室』でデビュー。今年で漫画家39年のベテランであるが、メジャー誌での連載がないせいか漫画好き以外にはあまり知られていないが、藤田和日郎(代表作『うしおと虎』)や田島昭宇(代表作『多重人格探偵サイコ』)、平野耕太(代表作『ヘルシング』『ドリフターズ』)といった面々に敬愛される作家である。

代表作は何と言っても著者のライフワークともなっている『夢幻紳士』シリーズ。

謎の人物夢幻魔美也が、ポーや乱歩を思わせるような怪奇な世界で活躍する物語です。とはいえ、実はお話はさほど重要ではなくこの人の作品いおいて最も魅力的なのは画です。

 

ほとんどを筆でのみで描く妖しい画

有名な話でこの作家はほとんど筆のみで作画を済ませてしまうそうです。そのため黒と白がはっきりとして、輪郭は独特の丸みを帯び、非常に妖しい画となります。何枚か見てもらいましょう。

件の夢幻魔実也、完全に黒と同化したかれがとても妖しいく、かっこいい。

f:id:hoorudenka:20160705194449p:plain

 後述するが、この目が重要。魔美也は目で怪奇を見通し、時には催眠術を仕掛ける。

f:id:hoorudenka:20160705195216p:plain

美人の残虐画も得意。このハイライトもシャドウもない女の裸はひとえに筆による線だけで表現されている。

f:id:hoorudenka:20160705195603p:plain

普通に怖い画もかける

f:id:hoorudenka:20160705195924p:plain

 

まだまだ、あげたいところだが、これくらいにしておいて本題にいきたい。

高橋葉介の白目

高橋葉介の画について言いたいことは「目」につきる。

すでにあげた魔美也の目や以下のような女性の目にも共通点がある。

それは黒目より白目の方が多い、三白眼だ!

見よ、この美しい三白眼。

f:id:hoorudenka:20160705200940p:plain

乱れた髪と三白眼

f:id:hoorudenka:20160705201235p:plain

 

黒目と白目

一般に黒目は大きいほど可愛さを強調することができる。黒目を大きく見せるコンタクトなんかはまさにそれだし、アイドル的な女優も黒目が大きい。小動物もこれにあてはまります。

有村架純

f:id:hoorudenka:20160705202011j:plain

石原さとみ 目の八割くらいが黒目

f:id:hoorudenka:20160705202025j:plain

子犬は100%黒目

f:id:hoorudenka:20160705202220j:plain

逆に白目の多い、いわゆる三白眼はこれとは逆に三白眼は妖しさや不気味な印象を持たれがちなので、テレビとかでは結構珍しいです。

 

小松菜奈

こんなゾクゾクする妖しい目の女はいないもんかと思ってました。

たまにいますが、真里アンヌとか。

f:id:hoorudenka:20160705203629j:plain

でもちょっと前に出ましたね『渇き』という映画は、彼女を世に出したことだけがその価値とも言えますが、小松奈々です。

f:id:hoorudenka:20160705203948j:plain

f:id:hoorudenka:20160705204011j:plain

完璧だ。完璧な白目だ。前述の高橋葉介の「でてこい」の画と見比べてほしい。素晴らしい一致だ。『渇き』では「あの悪魔」と呼ばれていましたが、まさしく悪魔の目だ。こんな妖しい目つきの女の子が最近では、普通に少女漫画原作の映画で主演してるとか信じがたいです。みんな騙されてるんじゃないのか、あの目に。

 

 

 

 

『夢幻紳士』シリーズはいくつもバージョンがありますが、

読み始めは以下の4作をおすすめします。

 

夢幻紳士 (怪奇篇) (ハヤカワコミック文庫 (JA889))

夢幻紳士 (怪奇篇) (ハヤカワコミック文庫 (JA889))

 

 

 

夢幻紳士 幻想篇 (早川書房)

夢幻紳士 幻想篇 (早川書房)

 

 

夢幻紳士 逢魔篇 (早川書房)

夢幻紳士 逢魔篇 (早川書房)

 

 

夢幻紳士 迷宮篇 (早川書房)

夢幻紳士 迷宮篇 (早川書房)

 

 

 

 

 

感想『かっこいいスキヤキ』孤独のグルメの原点。俺はお前の食い方が気にいらねぇ!★★★★★

『かっこいいスキヤキ』泉昌之 扶桑社文庫 掲載表題作1983年 掲載誌おそらくガロ

 

泉昌之という人

個人ではなく作画泉晴紀、原作久住昌之の二人の連名。最近はこの二人での作品はないらしいが、久住昌之の名前はよく知られているだろう。

孤独のグルメ』、『花のズボラ飯』の原作者であり、グルメ漫画の大御所である。

彼は漫画原作だけでなく、エッセイや絵本の原作も手がけているらしい。知らなかった。そして、彼の初期作短編集がこの『かっこいいスキヤキ』である。

 

食べ物ではなく「食べ方」への着目

いろんな漫画が収録されているが、グルメ的な題材に限定すると表題作「かっこいいスキヤキ」と「夜行」だろうか。

このどちらも特に食べるものに頓着してない、前者はすき焼き、後者はしがない駅弁である。ここでのすばらしい着目は食べ方への異常なこだわりである。

 

かっこいいスキヤキ

舞台は部活の合宿だろうか。主人公を含む四人組がすき焼きの鍋を囲んでいる。

主人公はこの中で様々なこと考える。

「あいつ肉ばっか食いやがって、これだから田舎もんはいやだぜ!」

さすが東京育ちの〇〇は違うぜ肉と野菜をバランスよく、食ってやがる。いや待てよ…。」

「こうなればあいつの見えない位置に肉を配置してやる」

まさに心理戦。浅ましい食い意地のぶつかり合いである。食べ方から勝手に相手を生い立ちまで

想像し、嫌いになっていくさま。

いやな感じがしてしまいそうだが、ちゃんとギャグになっているので、何回読んでも笑える。

 

夜行

世にも奇妙な物語で実写化されていたのを思い出す。

トレンチコートのハードボイルド男が、駅弁を食べるだけの話。

しかし彼の食べ方のこだわりは異常だ。おかずに対してどの程度ご飯を食べるか、漬物やほかの惣菜はどうはさんでいくか、細かく計算して食べていくのだが、それだけで面白い。この辺りは『孤独のグルメ』と同じ魅力か。

 

人の食べ方は面白い、そしてくだらない。

人の食べ方はまさに千差万別で面白い。何から食べるのか、おかず?汁物?付け合わせ?好きなものから食べるから、嫌いなものから片付けるか。箸の持ち方はどうか。好き嫌いはあるか。醤油をかけるソースをかけるか。無限とも言える選択肢がある。

それによって得られる他人の印象、本当にささいなことだけど、気にする人は異常に気にする。でもこの漫画を読めば、それが笑い飛ばすべき些細なことだと気がつくだろう。

 

食べ方ジャンルの広がり。

孤独のグルメ』がこのジャンルのやはりスターだろう。

久住昌之というパロディ作家と大御所谷口ジローのクソ真面目な画が合わさったとき、この奇妙に気になる漫画が生まれた。食べるものより主人公五郎の食べ方、あるいは食べるに至るまでの道のり、別に変なところはないのになんだかおかしい。

また、直接的なフォロワーとしては『目玉焼きの黄身いつつぶす?』だろうか。

主人公の二郎は、人の食べ方が異常に気になる、目玉焼きの黄身はどのタイミングでつぶす?とか何をかけるか。カレーは全部混ぜるか、少しずつつけるか。焼肉で白米は食べるべきか、カツのキャベツはどう食べるか?まさに『かっこいいスキヤキ』が開拓したジャンルである。この作品もとても面白いので『孤独のグルメ』がすきな人は是非読むべきである。

 

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

 

 

 

 

 

 

 

 

紹介 小梅ちゃんの作者 林静一

林静一

小梅ちゃんの作者といってわからないなら、アジカンのジャケットで有名な中村佑介の元ネタといった方がいいだろうか。あの平面的で色白ながらも、目をひきつけてやまないイラスト。林静一という大ベテランはもっと知られてもいい作家だ。

今でこそイラストレーターだが、漫画も描いていた。漫画雑誌「ガロ」でつげ義春鈴木翁二と並んで突出した才能を見せていた彼の画風は、中村佑介が示したように現代でも十分魅力的だ。

 

漫画作品 『赤色エレジー』

1970年の作である。貧乏漫画家である主人公と彼女との愛おしくも苦々しい同棲生活を描く。フォーク歌謡『神田川』みたいな世界観といえばわかりよいだろうか。

僕はたまにこの時代こういう貧困の有様が、あるいはフォークの世界観が、今の時代と近いような気がすることがある。フォークはヒッピーに代表される反戦の影を深く背負っている。アメリカにおけるベトナム戦争の憂鬱が、日本にまで波及し、当時の若者は環境問題など悪化する社会情勢と自分の身の上を自ら憐れんでいた。

それから半世紀、格差と貧困は時代のキーワードになった、忍び寄るテロにみなが憂鬱を抱えている。

2つの時代にどれほど共通点があるかはわからないが、本作が昔の話と片付けるにはもったいないほど心に響く作品であることは間違いない。

 

主人公の恋人が憂鬱を抱えている場面。平面的だが暗くて切実だ。

f:id:hoorudenka:20160702225418g:plain

 

最も有名なコマ。「明日がくれば悲しいことは忘れられる」に続くセリフ。

f:id:hoorudenka:20160702225530j:plain

 

イラスト

小梅ちゃんを始めとする女性画が有名。色白で華奢で若干レトロ。

f:id:hoorudenka:20160702230703j:plain

f:id:hoorudenka:20160702230715g:plain

f:id:hoorudenka:20160702230725j:plain

 

赤色エレジー (小学館文庫)

赤色エレジー (小学館文庫)

 

 

  

 

林静一美人画集

林静一美人画集