感想『かっこいいスキヤキ』孤独のグルメの原点。俺はお前の食い方が気にいらねぇ!★★★★★
『かっこいいスキヤキ』泉昌之 扶桑社文庫 掲載表題作1983年 掲載誌おそらくガロ
泉昌之という人
個人ではなく作画泉晴紀、原作久住昌之の二人の連名。最近はこの二人での作品はないらしいが、久住昌之の名前はよく知られているだろう。
『孤独のグルメ』、『花のズボラ飯』の原作者であり、グルメ漫画の大御所である。
彼は漫画原作だけでなく、エッセイや絵本の原作も手がけているらしい。知らなかった。そして、彼の初期作短編集がこの『かっこいいスキヤキ』である。
食べ物ではなく「食べ方」への着目
いろんな漫画が収録されているが、グルメ的な題材に限定すると表題作「かっこいいスキヤキ」と「夜行」だろうか。
このどちらも特に食べるものに頓着してない、前者はすき焼き、後者はしがない駅弁である。ここでのすばらしい着目は食べ方への異常なこだわりである。
かっこいいスキヤキ
舞台は部活の合宿だろうか。主人公を含む四人組がすき焼きの鍋を囲んでいる。
主人公はこの中で様々なこと考える。
「あいつ肉ばっか食いやがって、これだから田舎もんはいやだぜ!」
さすが東京育ちの〇〇は違うぜ肉と野菜をバランスよく、食ってやがる。いや待てよ…。」
「こうなればあいつの見えない位置に肉を配置してやる」
まさに心理戦。浅ましい食い意地のぶつかり合いである。食べ方から勝手に相手を生い立ちまで
想像し、嫌いになっていくさま。
いやな感じがしてしまいそうだが、ちゃんとギャグになっているので、何回読んでも笑える。
夜行
世にも奇妙な物語で実写化されていたのを思い出す。
トレンチコートのハードボイルド男が、駅弁を食べるだけの話。
しかし彼の食べ方のこだわりは異常だ。おかずに対してどの程度ご飯を食べるか、漬物やほかの惣菜はどうはさんでいくか、細かく計算して食べていくのだが、それだけで面白い。この辺りは『孤独のグルメ』と同じ魅力か。
人の食べ方は面白い、そしてくだらない。
人の食べ方はまさに千差万別で面白い。何から食べるのか、おかず?汁物?付け合わせ?好きなものから食べるから、嫌いなものから片付けるか。箸の持ち方はどうか。好き嫌いはあるか。醤油をかけるソースをかけるか。無限とも言える選択肢がある。
それによって得られる他人の印象、本当にささいなことだけど、気にする人は異常に気にする。でもこの漫画を読めば、それが笑い飛ばすべき些細なことだと気がつくだろう。
食べ方ジャンルの広がり。
『孤独のグルメ』がこのジャンルのやはりスターだろう。
久住昌之というパロディ作家と大御所谷口ジローのクソ真面目な画が合わさったとき、この奇妙に気になる漫画が生まれた。食べるものより主人公五郎の食べ方、あるいは食べるに至るまでの道のり、別に変なところはないのになんだかおかしい。
また、直接的なフォロワーとしては『目玉焼きの黄身いつつぶす?』だろうか。
主人公の二郎は、人の食べ方が異常に気になる、目玉焼きの黄身はどのタイミングでつぶす?とか何をかけるか。カレーは全部混ぜるか、少しずつつけるか。焼肉で白米は食べるべきか、カツのキャベツはどう食べるか?まさに『かっこいいスキヤキ』が開拓したジャンルである。この作品もとても面白いので『孤独のグルメ』がすきな人は是非読むべきである。