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HONKY TONK 脳内

主に漫画についての評論 好きな漫画はジョジョ・萩尾望都・楳図かずおと答えるようにしてます。 映画についてはTwitterで https://twitter.com/hoorudenka

誰も話さない本当の『ONE PIECE』第3回 歴史への着目 社会との共鳴

ONE PIECE』のすごいところ。

前回までのお話で本作における「遺産」の重要性に気がついてもらえたかと思います。このようなしっかりとした構造を作り上げていること自体、並の作品ではないことがわかりますが、『ONE PIECE』のすごいところはこれに留まりません。

ここからはちょっと作品外の話をします。なので口調も変わりました

なんでもそうですが、こと芸術分野の評論において、社会との関係云々とか言い出すと途端にうさんくさくなりがちです。「〜で学ぶ仕事術」とかいうありがちなタイトルの自己啓発本なんかはこれの最たるものだし、映画の評論でいわゆるその国の「歴史」とか「昨今の社会事情」とかすぐ語っちゃうのも同様にうさんくさいです。つまりはそれお前が勝手に連想しただけだろという、説得力のない話になっていることが多いということで、ひどい時にはそういう風に語れないから、この作品はクソだとなってしまうことすらある。

何が言いたいかというと、これまでの話のようなあらすじや個々のエピソード、描写のようないわゆる「作品内」のことに比べて、現実社会や歴史といった「作品外」のことと結びつけて話すのは相当に難しいということです。ともすると、それはそういう風にうまく作品を作ることがそもそも難しいということでもあります。

しかしながら、「うさんくさい」評論が溢れていることからもこれは一応社会的に要請されていることなのでしょう。

そして、『ONE PIECE』はそのような難事をそれとなくさらっとやってのけています。

 

歴史への着目と社会との共鳴。

ONE PIECE』のすごいところは社会とこの「遺産」のテーマを巧妙にリンクさせているところです。それもおそらく意識的に。

作者尾田栄一郎については、僕は熱心な読者ではないのでよく知りませんが(Q&Aもろくすっぽ読んでない)歴史について非常に意識的ということは分かります。

空島はそのままアメリカにおけるネイティブアメリカンの問題をベースにしているし、魚人島は階級社会と差別の問題を想起させる。また、ちょっと強引ですがウォーターセブンは、貿易の中継点として躍進した小さな国シンガポールの成り立ちを思わせるところがあり、世界政府と革命軍という対立関係も歴史では馴染み深い。加えて、作中の人物造形を実在の人物をモデルにしていることもあります。

そこで作中における歴史を整理してみます。まず、人々の知らない古代文明がありそれについての情報はすべて「空白」となっている。そしてその空白の後に世界政府が突如として樹立、そして現代では彼らの管理下で世界は成り立っているとこうなっております。

こう整理すると、やはりこの歴史構造もモデルがあること分かります。何をモデルにしているか。それは日本の歴史です。

これは世界政府とGHQをイコールで結ぶとわかりやすいです。

日本敗戦の後GHQ憲法などあらゆるものを日本に与え、そして日本は国として再出発しました。そしてそれと同時に敗戦前の「伝統的」な価値観からは急速に遠ざかって行きました。

いわば戦前と戦後を分ける「空白」ができたのです。

ONE PIECE』の世界では古代文明のことはほとんど誰も知りません。現実ではさすがにそういうことにはなっていませんが、戦前の価値観をほとんどの人は縁遠いものと感じているはずです。逆に無理にでも結び付けようとする人もいますが、これは同じ問題を前にした際の違った反応というだけで、大差ありません。

「空白」ということばでわかりづらいなら「断絶」と言ってもいいですが、本ブログは漫画などについて評するので、歴史認識についてこれ以上は深入りしません。しかし、日本の文化における賞賛や歴史ブーム、首相のスローガンであった「日本を取り戻す」というワード、先の参院戦でのポイントだった憲法など、先人からの「遺産」をめぐる問題はいつもこの国の主要なテーマです。いうなれば、我々も先人からの「遺産」を探している人々と言えますが、うさんくさくなってきましたね。

とはいえ、ワンピースのすごいところのひとつはこの大きなテーマを作品内におおっぴろではない形で盛り込み、優れた社会性を獲得しているところです。こう考えるとこれだけの大ヒットになるのもわかるし、ますますその重要性が高まってきます。読んでない人は頑張って読みましょう。

 

社会における「遺産」の重要性もわかったところで

次回は、この「遺産」についてのテーマが『ONE PIECE』に劣らない他のヒット作にも隠されているという衝撃の事実を暴露します。