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HONKY TONK 脳内

主に漫画についての評論 好きな漫画はジョジョ・萩尾望都・楳図かずおと答えるようにしてます。 映画についてはTwitterで https://twitter.com/hoorudenka

『ワールドトリガー』やはり少年漫画はあなどれない。超緻密な役目(あるいは才能)と責任のSF★★★★

ワールドトリガー』既刊16巻(2016年10月13日現在)作者葦原大介 掲載誌週刊少年ジャンプ 2013年〜

全力で読み出した経緯

作品名だけは知っていたけど、なかなか本腰で読むことができなかった本作。

たまたま出会った後輩づての女の子(漫画の編集者希望だった気がする)がとてもこの作品を推していたのだが、3巻くらいで一度読むのをやめた。

なぜなら戦闘を担う登場人物たちのほとんどが20にもならない中高生という設定なので、もう僕みたいなアラサーは少年漫画を読んじゃいけないのかなーというすねた気持ちになったのが大きい。しかしながら、さる事情でとても時間ができたので続きを読んでやっと気がついたのだが、これはとても大人向けのテーマを持った作品だった。

 

あらすじ

ほとんど現代のような見てくれではあるが、劇中の日本は「ネイバー」とは呼ばれる異次元の敵の侵略を受けている。不意をついて機械生物みたいなものがワープして襲ってくるのだが、それを阻止するために結成されたのが「ボーダー」と呼ばれる主人公たちが所属する機関である。彼らの武器は「トリガー」とよばれる「ネイバー」から回収した技術で、「トリオン」と呼ばれる人間が持つなんらかのエネルギーを利用したものだ。

戦闘時にはこの「トリオン」が身体を模して代替し、腕や足を切られても生身は保存されているので、戦い続けることができる。そして、トリオンを使った攻撃は実に多彩かつ現実的で、一般的なところでは剣、弾丸といった使い方だが、それを上回る反則的なものまである。

ハード寄りなSFなので固有名詞が多く、基本的な世界観を説明するだけで字数がかさみあまり詳しく書けないが、このような世界観で主人公たち(作者によると4人いる)を含むボーダー隊員がそれぞれ戦っていくというのが主な筋。

 

少年漫画にあるまじき冷静さと緻密さ。

よく言われるように本作の最大の魅力は、驚くべき緻密な戦略を用いたチーム戦と少年漫画にそぐわない戦闘時に冷静な人しかいない全体的にクールなトーンである。

前述したボーダー担任は基本的に3人ないしは4人でチームを組んでおり、その戦術はチームで大きく異なり、かつ非常によく練られている。はっきり言えば、全然中高生のレベルじゃない。

この魅力が最大限に発揮されるのは6巻のネイバーが恐るべき多勢で街全体をせめてくる大規模な戦闘だろう。ネイバー、ボーダーを含めおそらく20人以上の登場人物が、無数の敵の機械生命体も入り混じりながら、ちゃんとした戦略を持って大戦争を繰り広げる。しかしながら、無駄な人物は1人もいない。それぞれがちゃんと「役目」を持っているからだ。

 

役目と責任

最初に書いたようにこの作品はとても大人向けなビターな味わいを持っている。

なぜならこの作品で繰り返し描かれるのは「役目」と、多くの人が聞いただけで胃がキュッとなり世界で何番目かに嫌いな「責任」というものをテーマにしているからだ。これは大人といわれる年齢に近い人であればあるほど痛感しているものだと思う。ゆえに大人向け。

なぜそんな印象を持ったかというと、それは本作では敵も味方も多くの人物はなぜか有事になると自分の「役目」を積極的に宣言する。以下はその例となるいくつかのシーン。

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戦闘能力の低い隊員でもちゃんと「役目」を言い渡される。

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主人公2人の会話。このメガネはとても戦闘力が低いが自分の「役目」を鋭く洞察することができる。

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役目は敵に対するありがちな「勝利」ではない。この3人も劇中屈指の強さだがこういう「役目」を担うこともある。

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役目をはっきり宣言する。

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この角が生えた人は敵の指揮官だが彼もちゃんと「役目」を宣言する。

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本作の戦闘におけるスタンスを最もよく言い得ている場面。

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この女の子も敵ですが、ちゃんと宣言してます。

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務めと言い換えていますが、先輩隊員がやはり隊長という「役目」を深みのある言葉でうまく言い渡している名シーン。

 

役目は自動的に責任を召喚する。

「役目」を与えられた人間は、自動的にもうひとつ「責任」という苦しみを背負わざるを得ない。つまり「役目」は「責任」分かち難く結びついており、そして「役目」を果たせなかった人は、その「責任」に押しつぶされてしまうこともある。

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主人公の1人メガネくんは、哀れなことに、最も「役目」を果たせないし「責任」に苦しめられるキャラ。

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もう1人の女の子主人公も、責任に苦しめられる。ちょっと「役目」とは違うので後述します。

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作中で真っ向から「責任」を語るシーン。メガネ君にこれを言わせるあたりやっぱりすごい。

 

責任を呼び出すもう一つの要素。

「役目」と「責任」がとても近いものであるのはなんとなく分かってもらえると思うが、責任を召喚してしまうもうひとつの存在は「才能」である。かっこいい言い方でいうとノブレスオブリージュというやつで、持てる者はそれを広く役立てる義務を負うというやつだ。

本作の非凡な作者はやはりそれを分かっていて、巧みに「才能」を物語に配置してみせる。その代表的な要素が作中で「サイドエフェクト」と呼ばれる一部の登場人物が持つ超能力である。この能力も多彩で、未来予知ができる反則級のものから、音が人よりよく聞こえるだけといったものまで多種多様である。

先に挙げたページにある千佳は莫大なトリオンを持つという「才能」のせいで兄をネイバーに拉致され、やはりその「責任」に苛まれているし、未来予知の「才能」を持つ迅も、飄々とした外見とは裏腹に重過ぎる「責任」を負っている感じをさりげない描写から強く受ける。*1

 

責任は新たな役目を生んでいく。

この二つの要素は卵と鶏みたいなものだ。

役目は責任を生み、それが果たされたか否かに関わらず、また新たな「役目」を生み出す。そしてもしかしたらいずれは「才能」という呼べるものさえ呼び出すかもしれない。

一般的に少年漫画はどちらかというと、責任というより「願望」でドライブする。例えばライバルに勝ちたい、好きな女の子を守りたい、苦しんでいる人を助けたいなど。「願望」は「夢」と言い換えてもいい。責任という重苦しいものに対して、夢はとてもドラマティックできれいだが、ともすると軽薄で頼りないものになってしまうこともある。

「役目」と「責任」そして「才能」、この繰り返されるループが『ワールドトリガー』という物語をとても力強く動かしている。

 

 

*1:多分多くの人が思うように彼はおそらくどこかで物語から退場してしまうだろう。こんな責任を負える人物はいない。