HONKY TONK 脳内

主に漫画についての評論 好きな漫画はジョジョ・萩尾望都・楳図かずおと答えるようにしてます。 映画についてはTwitterで https://twitter.com/hoorudenka

誰も話さない本当の『ONE PIECE』第4回「遺産」というテーマ。近年の大ヒット漫画。

「遺産」というテーマ。近年の大ヒット漫画。

 ここまで『ONE PIECE』における「遺産」を考察し、さらにこのテーマが日本社会も共通して持つ重大なものであることもわかった。

そしてここで本作以外の作品を見ていきたい。興味深いことに近年の他の大ヒット漫画も、もちろんすべてではないが、共通してこの「遺産」のテーマを持っているように思える。

そしてそのテーマに対しての向き合い方は様々である。ここでは、ジャンプで長年二枚看板を張ってきた①『NARUTO』、サンデーでは異例の大ヒットを飛ばした②『鋼の錬金術士』、そしてこのテーマに関しても最も挑戦的な大先輩③『ジョジョ』シリーズについて見ていきたい。なおネタバレを含むので読んでいない人はご注意を。

①『NARUTO』先人との戦い。

本作は『ONE PIECE』が始まった2年後1999年に開始され、以後15年に渡ってジャンプの二枚看板として大ヒットを飛ばしてきた。そしてこの『NARUTO』も「遺産」を受け継ぐというテーマに 意識的である。

まず、主人公ナルトの夢は忍者の里の長である火影という名を受け継ぐことである。そして彼の中には、前時代における戦争の負の遺産である「九尾」が封印されている。これだけで「遺産」というテーマが本作の主軸になっているかわかるというものである。

ここで『ONE PIECE』のようにまた個々のエピソードに触れるべきだが、冗長なので割愛する。

では 『NARUTO』はこのテーマをどう描いたのだろうか。

端的にいうと、それは「先人との戦い」という形で描かれていると言えるだろう。主人公ナルトは自身に封印された大きな力「九尾」のせいで、それを利用しようとする様々な勢力に攻撃を受けることになる。その敵を打ち破る中で、彼は自分に連なる里の歴史の暗部、つまり先人たちの過ちに気づいていく。戦争の中で里を守るために多くの犠牲を強いてきた歴史、それを背負い恨みを持った人々が自分を利用しようと襲いかかってきていることに気づくのである。

そして、里のトップの火影を目指す彼はそれらに真っ向から立ち向かっていくのであるが、それは本当に歴史上の人物とのバトルという形で描かれる。

これは初期では伝説の三忍の一人「大蛇丸」であったり、戦争の犠牲者「長門」や「オビト」、里の成立に関わる歴史上の人物「うちはマダラ」、果ては自分の使う忍術をもたらした原因たる「かぐや」など、実際に過去の偉人たちと戦うのである。

この過去との戦いが最初にはっきり登場したのは、中忍試験編の最終部での三代目火影VS大蛇丸においてである。大蛇丸は戦いの中で禁術「穢土転生」を使い、初代火影と二代目火影を無理やり蘇らせて、三代目と戦わせる。この時三代目には様々な思いが去来するのだが、このような「穢土転生」での戦いは作品最終部でも大規模に行われる。過去主人公が倒した敵から、名前も出てこなかった各里の先代リーダーたち、死んだ家族など、未曾有の世代間大戦争である。

この戦いの中で、登場人物たちは過去の過ちやそれによる恨みといった負の「遺産」をどう清算し、次世代へとつなげていくか自問していくこととなる。

そして最後は負の「遺産」を一身に受けたサスケと、それを清算し正の「遺産」としたナルトが戦い、腕の欠損という犠牲を払ってこの歴史戦争に幕が下りたのは感動的とも言える作品全体の縮図であったように思う。

かけあしになったが、以上のようにNARUTOという作品においては、「遺産」を受け継ぐというテーマが先人との文字通り戦いという形で描かれていると言えるだろう。

時代を代表するとも言える二大少年漫画が、同じテーマを違ったアプローチで捉えていることは本当に興味深い。

 

②『鋼の錬金術士』 偽の歴史を捨てる。

月刊少年ガンガンで掲載された『鋼の錬金術士』も時をほぼ同じくしてヒットした作品である。そして、この漫画も錬金術という「遺産」をめぐる物語になっている。

あらすじとしては、死んだ母を生き返らせるという禁じられた練成をしようとした二人の兄弟がそれに失敗し、兄は片方の腕と足を、弟は体そのものを失ってしまい、それを取り戻す方法を探す旅に出るという話である。また、主人公たちが住むアメストリスという国以外にも、イスラム諸国を想起させるイシュバール、中国テイストな国シンなど現実の歴史を強く思い起こさせるものとなっている。

二人はこの旅の中で、錬金術がどうやら自分達が住む国の根幹に関わるものだということに気づいていく。ネタバレをおそれずに言えば、黒幕ホムンクルスが巨大な錬金術の発動のために国の歴史を影で操っていたのである。そして、その副産物として自分たちの錬金術があったというのが真相である。

このことは作中の人々が今まで知らないうちに操られ、偽の歴史つまり偽の「遺産」を引き継いできたと考えることができる。そして、物語の最後に主人公エドワードは偽の「遺産」の象徴たる錬金術を自ら捨て去ることを選ぶ。こうして彼はみずから歴史を作っていくことができるのである。

③『ジョジョ』シリーズ さらにその先のテーマ。

ONE PIECE』が始まる約10年前から、主人公を変えつつ続くこの一大サーガは現在も日本の漫画の最前線を走り続けている。この漫画においては「遺産」という言い方よりも「血統」や「黄金の精神」という方が馴染み深いだろうか。

ジョジョについてはいつか改めて書きたいと思うので、ここでは要点を絞っていきたい。

ジョジョの物語はディオとジョースター一族の果てしなく続く戦いの歴史である。ジョースターの一族はある宿命を持っている。それは一部の主人公ジョナサンが戦った宿敵ディオに連なる悪と戦うことである。彼らは時には意識的に、時には運命的な偶然でこの運命を引き受けていく。

「遺産」を引き継ぐという軸で見ると自身の血統につながる宿命を単純に受け継いでいくだけの話に見えるが、ジョジョという途方もない名作はもちろんそれに留まらない。

キーワードは二つある「繰り返し」と「血統の混乱」である。

まず、「繰り返し」について。

歴史とは繰り返しという話がある。これを真に受けるならば、ジョジョの物語はまさにその繰り返えされる歴史ということができる。しかしもしそうなら、自分の歴史つまり運命は決めれているのではなかろうか。そしてそれを知り、覚悟することは幸せなことなのではないか。そう、歴史言い換えれば「遺産」を受け継ぐということを「繰り返し」たらどうなるかというを意欲的に描いたのが6部の物語である。

はっきり言って『ONE PIECE』を含むここまで紹介した他の作品の一歩先をいく話であり、「遺産」という鍵だけでは語り尽くせない話題なので、ここで筆を置いて逃げておこうと思う。

しかしながら、このような物語でもってひとまず『ジョジョの奇妙な冒険』という作品に一区切りをつける感覚には驚かされる。同じ物語を繰り返すということに真っ向から挑んだのである。

そして、この「繰り返し」という話題はその次の『スティールボールラン』にも引き継がれる。この部に登場する黄金の回転はまさしく「繰り返し」をそのまま武器としたものといえる。無限の回転エネルギーとは、そのまま無限に繰り返されるジョースター家が悪に打ち勝っていく歴史のエネルギーである。これによりこれまた無限にある大統領の平行世界に打ち勝つことができるのである。

ともかくもこの「遺産」の相続を何度も繰り返している作者荒木飛呂彦は、ひとつ先のステージいることは間違いない。

 

では次に「血統の混乱」について考えたい。

これは評論誌『ユリイカ』でジョジョの特集号で誰か書いてたことですが、ジョジョは血統の物語と言いながらもこれが密かに混乱してきている。

まず3部において ディオの体はジョナサン・ジョースターであり、間接的にディオは混血した存在になっている。そしてのその息子は5部で主人公になっている。この主人公ジョルノはすでにどっち血統に属しているのかよく考えるとわからない。「遺産」のテーマに立ち返れば、誰がどの「遺産」を受け取るべきかわからなくなるという深刻な事態である。

そしてこのテーマは現在連載中の『ジョジョリオン』において主要に取り扱われている。主人公定助は自分が何者か分からない。読み進めるうちにどうやらなんらかの力によって吉良と空条丈世文なる人物が混ざった人間だということがわかってくる。これはまさに「血統の混乱」と言える。最近のジョジョでは自分がどの血統に属すべき存在なのかわからず、それを探し求める姿を描いている。

したがってどの運命、言い換えるなら誰の「遺産」を引き継ぐべきなのかわからないというこれまたこれまでの作品群の先をいくテーマといえるだろう。

この2点からもわかるように『ジョジョ』という長く続く作品が他のヒット作をも凌ぎ、最もラディカルな作品であることが分かる。

 

今回は『ONE PIECE』以外の作品における「遺産」のテーマを取り上げた。

もちろんすべての作品がすべての作品がこのテーマだけで語りつくせるものではないし、最近の作品が突出してこれを取り扱っているかと言えばそうではないと思う。だが、特に『NARUTO』のおいてだが、すべて少年漫画ではあるものの一見して全然違うこれらの作品が同じ問題に向き合っているのは共時性を感じないでもない。

 

次回は一応の最後、ワンピースのこれからを作者でもないのに考えたい。

作品に対する現時点での不満をまとめ、全体の総括をしていく。