HONKY TONK 脳内

主に漫画についての評論 好きな漫画はジョジョ・萩尾望都・楳図かずおと答えるようにしてます。 映画についてはTwitterで https://twitter.com/hoorudenka

『ブスの本懐』これはブスのイノベーション ★★★★★

『ブスの本懐』著者カレー沢薫 掲載誌cakes

 

カレー沢薫という作家

絵が下手でも漫画家になれるを体現する人の1人。他には青木雄二福本伸行などがいらっしゃる。彼女は普通に会社員として働いており、仕事が終わった後に漫画を描くという壮絶な生活をしながらも、結婚まで勝ち取っているという珍しい人物である。

というと相当に有能なクリエイターを思い浮かべるが、実際は全くの逆であるらしい。

職場でもほとんど人と話さず、そればかりか夫とも話さず、さらには人の不幸がもっとも好きで、おまけにものすごいブスという。これは僕が勝手に言ってるわけではなく、彼女のコラムをまとめた『負ける技術』を読んでもらえばわかる。

というわけで、漫画ばかりかコラムも書いていらっしゃるが、はっきり言うと漫画よりおもしろい。というわけで、一応漫画家が書いているけども、漫画ではない本書を今回は取り上げることにした。

女性が女性を評するジャンル

女性が女性を、それも辛辣に評する。このようなジャンルに名前はない。しかしながら、このテーマを持った作品群は確かにある。例えば、昨今のヒット作『タラレバ娘』。これは直接ではないが確かにこのような傾向を持っているし、さらには『臨死!!江古田ちゃん』や『女の友情と筋肉』、『独身OLのすべて』など枚挙にいとまがない。これは漫画だけではなく、いとうあさこといった身近な女性像をネタにした芸人の多さや、変則的なところでいえばマツコデラックスの活躍を思い浮かべてもらえば、普遍的に存在するジャンルだと思う。

とはいえ、これらの作品ないしはコンテンツは、いわゆる強者といえる女性をあつかっていることが多い。外見がよかったり、権力(男性にかぎらない)に媚びるのが上手であったり、そのような女性をやっかみだとと読者に分からせつつからかうという、そういうユーモアであった。

ターゲットはブス

しかしながら、それとは逆?に本書のターゲットは、ブスである。この昨今もっとも扱い難いテーマを真っ向から扱うその姿勢は、間違いなく賞賛されねばならない。

まえがきを長く引用したい。

ブスという言葉をネガティブにとらえるのはやめよう。かといってポジティブにしなくてもいい。ブスはブスである。それ以上ではないし、それ以下は存在しない。ブスだけどハッピーになろう、みたいな生き方は生まれつきブスかつ頭がハッピーという、神も与えるならどっちかにしてやれよというような二物を与えられた者にしかできない。暗いブスがやると、そのうち無理が出てきてさらに深い海に沈んでしまう。

では、ブスといういう言葉を避けるのではなく、必要以上に使って、最終的にブスがなんなのかさえわからなくしてしまおう、というのが本書の狙いである。

このように作者はブスに対して必要以上に攻撃もしなければ、また擁護もしない。本当に絶妙な立ち位置でブスを評論してくれる。今まで表舞台に登場しなかったブスたちの成り立ちや、その傾向、生き様、誰も知らなかった真実が余すことなく公開されているのだ。

ブスのイノベーション

イノベーションなんていうこんな胡散臭い言葉を使いたくはなかったが、本書は本当に今まで想像だにしなかった女性像を浮かび上がらせたといって過言でない。世界最高のアンタッチャブルと言われたブス。女性だけでなくビジネスマンなどにも広く読んでいただきたい一冊だ。

オススメの章

基本的には全部おもしろいのだが、オススメの章とその中の部分を添えておく。

ワーキングブスの顔には「女の武器無使用」と書かれている

「ブスが一体、何をしたって言うんだ……」と、思わず、罪なき人が延々惨殺される映画を観たかのような声が漏れてしまった。

「職業=ブス」は「職業=SASUKE」ぐらいカッコいい

そもそも、ブスである利益とはなんなのか。「妻を亡くしてから失った笑顔を、君の顔を見て30年ぶりに取り戻した」と、シルクハットの老紳士に3万円渡されたというなら、確かにそれはブスによる収入だが、そんなことを言われたら、紳士が取り戻した笑顔を暴力によって再び奪ってしまうだろう。

ブスにはブスの戦いがあり、脳内でマウンティングする

全文。

量産型ブスは『小悪魔DOBUSU』を参考にしているわけではない

今回のテーマは「量産型ブス」である。

聞いた瞬間、同じビジュアルのブスの大群が宇宙空間を縦横無尽に飛び回る姿が想像される。

が、もしそうだったら、1年戦争どころか1分で勝負がついてしまう。

腹にダイナマイトだけ巻いて突っ込んでくるブスに勝てると思ったら大間違いだ

その点、ブスの顔は生まれた時からトラブルの連続のため、今更シワが一本増えたからといって、どうということはない。「木を隠すなら森」と同じように、「ババァを隠すならブス」。つまり「ブスは最大の防御」なのだ。

 

 

ブスの本懐

ブスの本懐