HONKY TONK 脳内

主に漫画についての評論 好きな漫画はジョジョ・萩尾望都・楳図かずおと答えるようにしてます。 映画についてはTwitterで https://twitter.com/hoorudenka

誰も話さない本当の『ONE PIECE』第1回 ONE PIECEは先人の「遺産」を受け継ぐ物語

はじめに

ONE PIECE』という作品が漫画において重要であることを認めないわけにはいかない。

日本の全出版物の中でぶっちぎり一番をマークし続ける週刊少年ジャンプを長年支え、単行本が発売されると毎回ベストセラーを叩き出し、その経済効果は計り知れない。

しかも2016年6月現在82巻という長寿。ちなみにアマゾンで80巻と検索してヒットした漫画は『名探偵コナン』『こち亀』『あさりちゃん』『ジョジョ』『美味しんぼ』『はじめの一歩』『ゴルゴ13』といった作品。すげぇなあさりちゃん

書いているうちにかなり長くなったが、簡単な話なのでワンピースを読んだ人はざっと読んでも理解できると思う。

ちなみに、この記事はこのブログを始めるにあたって一番最初に書いたのだが、考えていることを書いていたら1万字になってしまった。これでは誰にも読んでもらえないと思い、テーマごとに分けることにした。

 

ワンピースの主題 「遺産」を受け継ぐということ

第1回は『ONE PIECE』が一体どういう物語かということについて考える。

タイトルにもあるようにそれは「遺産」を受け継ぐ物語と言える。なにを当然のことをと思われるかもしれないがこのことをよく考えず、世間的には「ONE PIECEは麦わら一味を始めとする仲間との物語だ」という話になってしまいがちである。

この言説を否定するつもりはないが、「仲間」というのはこのテーマに比べると枝葉でしかない。これに関しては次回詳しく考えたい。

話を戻そう、ではなぜ先人の「遺産」受け継ぐ物語と言うことができるのか。

まず物語の最も大きな構造を見て欲しい。ルフィ達の冒険の目的は海賊王ゴールド・ロジャーの「遺産」、ひとつなぎの大秘宝ワンピースを手に入れることだ。

紛れもなく、これは先人の「遺産」を受けつぐということはわかってもらえると思う。

では、次にルフィ一味の個々のエピソードを見てみると、仲間達の過去という小さな構造でもこの「遺産」を受け継ぐというテーマが反復されている。ざっと紹介すると以下のようになる。

 

①ルフィの場合

赤髪のシャンクスが自分の片腕を犠牲にして彼を守り、海賊王への道を拓いたことは、ルフィがシャンクスから多くのものを受け継いだと言える。

トレードマークである麦わら帽子もこのとき手に入れている。

のちにそれはゴールド・ロジャーの「遺産」と発覚するが、彼に「遺産」を与える人物はエースや白ひげとまだまだ増えている。

②ゾロの場合

親友くいなの死と、その親であり師匠のコウシロウ先生は、彼の生き方に多大な影響というか、世界一の剣豪になるという生き方そのものを与えている。ゾロはアラバスタ編でのMr.1ダズ・ボーネス戦でも彼の教えを思い出しているし、くいなの「遺産」は「和道一文字」という三本の中で唯一折れていないとして刀として残ってもいる。また、彼にはミホークという新たな師匠もできた。

③ナミの場合

育ての親ベルメールさんは、死を持って彼女に親子の絆など多くのものを遺した。

それは船が新しくなっても引き継がれた、みかんの木という形でも残っており、ナミという強く賢い女性の原点でもある。

④ウソップの場合

まだ見ぬ父親ヤソップに象徴される強さへの憧れは、父親が彼に残した「遺産」だろう。彼のこの憧れは、巨人族ドリー&ブロギーによりさらに強化される。

⑤サンジの場合

自らの武器である片足を投げ打ってまで彼の命を救ったかつての海賊ゼフは、彼に料理や足技といった生きる術までも与えた。彼にとってゼフは父親にも等しい存在で、実際に親父と呼んでもいる。彼の影響でサンジは食べ物を粗末にすると怒る。

⑥チョッパーの場合

作中最も感動的なエピソードという呼び声高い「ヒルルクの桜」でも、主題は「仲間」ではなく、Dr.ヒルルクとくれはが彼に「遺産」を与えるというものになっている。ヒルルクの研究はまさに引き継がれた「遺産」と見るべきだし、くれははトナカイ人間である彼を息子とすら呼んでいる。

⑦ロビンの場合

ナミとは逆に親であると言わないことでその絆を証明した母親と、故郷オハラの研究者たちの目的は彼女の目的にもなった。そして、彼女は失われた歴史を記した「遺産」である古文書ポーネグリフ(歴史の本文ともいう)を読むことができる。これはもっとも重要な遺産である大秘宝ワンピースの核心ともなる部分である。

⑦フランキーの場合

船大工の師匠トムさんから彼は技術だけでなく、職人の心意気も受け継いでいる。

また、一時期は彼から受け継いだ禁断の古代兵器プルトンの設計図も持っていた。

⑧ブルックの場合

一応、死んだ仲間達の思い出、いうなれば遺産を、鯨であるラブーンに渡すことが彼の冒険の動機である。しかし、彼には他の仲間達のように偉大な先輩からという要素が薄い。どうやらゴールド・ロジャーより先輩である*1彼自身が「遺産」とも言えるが、このままいくと作者尾田栄一郎自身が、いわゆる仲間大事言説に引っ張られているという汚点になり得る。僕の作品に関しての不満は最後にまとめる。

 

以上で麦わら一味が個々に「遺産」を受け取っているという構造が明らかになった。

これに限らず、一味以外でも「遺産」を受け継ぐというエピソードは、空島のシャンバラという土地、ノーランドの伝承やトラファルガー・ローにおけるコラソン、白ひげとエースなど、枚挙にいとまがない。

また、いいものだけでなく悪いものを受け継いでいる人たちというもいる。ドフラミンゴの世に対する恨みやホーディ・ジョーンズの理由のない人間への敵対心がこれにあたるが、このような悪い面も描くところに作者の優れた才能が見える。

 

ワンピースが大きい構造でも、また個々のエピソードでも「遺産」を受け継ぐことを繰り返していることがわかってもらえただろうか。

これによって、本田区は「遺産」を受け継ぐ物語ということができるだろう。ちなみに「仲間」の話は確かにほぼすべてのエピソードで扱われているが、大きな構造にはなっていない。

 

次回はこの「遺産」を受け継ぐということがなにを表しているか、さらに深く考える。

 

*1:どのエピソードか忘れたが彼がロジャーの名前を聞いた時に「そんな名前のルーキーがいたような・・・」と発言している